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第8回 日本ミステリー文学大賞
新人賞
大賞 日本ミステリー文学界の発展に貢献した作家もしくは評論家に贈呈されます。作家、評論家、出版関係者などへのアンケートなどを参考に候補者を推挙し、選考委員会によって決定されます。
主催:光文シエラザード文化財団

大賞(西村京太郎氏)
西村京太郎
にしむら・きょうたろう
一九三〇年東京都生まれ。『終着駅(ターミナル)殺人事件』で、第三十四回日本推理作家協会賞を受賞。トラベルミステリーの第一人者として活躍。


受賞記念特別書下ろし作品「青い国から来た殺人者」
青い国から来た殺人者

3月24日発売予定
カッパ・ノベルス/書下ろし
東京、大阪、京都で起きた連続殺人事件を結ぶ接点は何か!青い海と空、そして緑の 山に恵まれた四国を舞台に、十津川の必死の捜査が始まった!巨匠が描くトラベルミステリーの傑作!

大賞講評(五十音順)

阿刀田 高

年譜で確かめてみると西村京太郎さんが『歪んだ朝』でオール讀物推理小説新人賞を受けたのが昭和三八年のこと、昭和四〇年の江戸川乱歩賞受賞(作品は『天使の傷痕』)とあいまって、かれこれ四十余年の歳月が流れている。

西村さんの功績の第一は、その間、つねに第一線のミステリー作家であり続けた、ということであろう。

初期の作品は、ときに重厚であり、ときに軽妙であった。『天使の傷痕』は今読んでもみずみずしいし、後者の代表作『南神威島』は、この方面の一大名作である。

やがてトラベル・ミステリーという新しいジャンルを切り開き、昭和五六年には『終着駅殺人事件』で日本推理作家協会賞を受賞。また十津川警部というキャラクターを創り出し国民的な存在として定着させた。たやすくできることではない。ベストセラー作家としての評価はまことに、まことに他の追従を許さない。ミステリー一筋の生き方は、この大賞にふさわしいものであり、心から拍手を送りたい。西村さん、おめでとうございます。


北方謙三

西村京太郎氏を論じる時、鉄道ミステリーを中心に置かれる場合が多いが、私は七〇年代の海洋消失ものからの読者であった。それにも、十津川警部は登場する。それから乱歩賞受賞作の『天使の傷痕』まで溯った。だから社会派の傾向が強いという感じを持っていたが、やがて作風の幅は大きく拡がった。トラベルミステリーにまで拡がる間に、スパイ小説もある。西村氏の大きな業績は、読者を飛躍的に増やしたということが第一に挙げられるが、それまでにさまざまな可能性が追求されてきたのだと、今回時代を追って数冊を読み返し、痛感した。それがあってはじめて、ミステリーの読者の裾野を拡げるということが可能だったのだろう。出版不況が続く中で、ミステリーは牽引車を続けてきたが、その中心に位置したのは、常に西村氏だった。

この賞は今年もまた、賞の名に最もふさわしい作家に贈られることになったのだと、私は確信している。


権田萬治

四十年にわたる作家生活の中で、西村京太郎氏は実にさまざまな新しい試みに挑戦して来たと思う。

処女長編の『四つの終止符』や乱歩賞を受賞した『天使の傷痕』など社会的関心豊かな初期の長編群、また、名探偵のパロディ・シリーズともいうべき『名探偵なんか怖くない』、さらには、スパイ・スリラーの『D機関情報』や、大がかりな舞台設定のサスペンスものの『ある朝 海に』や『華麗なる誘拐』等々。一人の作家が書いたとは思えないほど多彩な作品を次ぎ次ぎと世に送り出した。

その到達点が、トラベル・ミステリーの『寝台特急殺人事件』であり、海事専門の十津川警部が鉄道推理にも活躍するようになった。

以来、十津川警部とともに、七十歳を過ぎた後も西村氏は旺盛な筆力で人気作家であり続けている。これは容易なことではない。まさに、日本ミステリー文学大賞を受賞するにふさわしい実力派作家といえよう。


皆川博子

双子を使った替え玉トリックは、古今のミステリーに数多いのですが、西村京太郎さんが初期の作品『殺しの双曲線』においてもちいられた双子トリックは類例のないものでした。

冒頭から犯人が双子のどちらかであることを明かしており、しかも堂々と犯行を衆目に曝しているのに、裁判で有罪判決をくだすことが不可能というものです。勝ち誇った犯人は、何によってうち砕かれるのか。

また、これも初期の作品である『七人の証人』は、孤島物の独特なヴァリエーションで読みごたえがあります。

東西の名探偵を勢ぞろいさせた『名探偵が多すぎる』などのパロディ物も傑作です。

今回のご受賞を機に、今読んでも古さを感じさせない初期の本格作品群が、幅広い年齢層に再び読まれることを、あの当時興味深く熱心に読んだ読者の一人として、願っています。


第8回日本ミステリー大賞の選考会は、二〇〇四年十月二十八日午後四時より、第一ホテル東京において開かれ、選考委員により西村京太郎氏を受賞者と決定いたしました。
大賞
新人賞 広義のミステリーで、日本語で書かれた自作未発表の小説を公募。選考委員会によって決定されます。
主催:光文シエラザード文化財団

新人賞(新井政彦氏)
新井政彦
あらい・まさひこ
一九五〇年埼玉県生まれ。中央大学文学部卒業。学習塾経営。一九九九年、二〇〇〇年サントリーミステリー大賞優秀作品賞受賞。

新人賞受賞のことば
新井政彦
十数年前、古い友人と飲んでいたときのこと。友人は私にこう言いました。「十年間ひとつの事に打ち込んで結果が出ないのは、おまえに才能がないか努力が足りないかのどちらかだ」と。
そのときは、十年なんて基準がどこにあるんだと思っただけでしたが、この言葉は私の胸に深い楔を打ち込んでいたのでした。それから一年後、私は自分の人生に区切りをつけるべく最後の短編ミステリーを書き、応募した後は応募したことさえ忘れて新たな道を歩みはじめていました。
皮肉なことにこの短編が私の最初の候補作になったわけですが、しかしこれで受賞できていれば、友人の言葉は多少の誤差があった程度で済みます。実際にはそこからさらに七年、応募を繰り返す日々は続きました。書き始めてからとうとう二十年。やっぱり私には才能の努力も足りないのか……。
今回の受賞で、あのとき心に打ち込まれた楔を、やっと引き抜くことができたと思っています。


新人賞受賞作品「ユグノーの呪い」
ユグノーの呪い

3月22日発売予定
四六判ハードカバー
ある日突然、目と口が不自由になった美少女・ルチアはメディチ家の末裔。16世紀に 先祖が大量虐殺した新教徒・ユグノーの呪いなのか…。トラウマを排除するため、彼女の記憶空間に入り込んだヴァーチャル治療士・高見健吾が遭遇したものは…。斬新 な着想と抜群の筆力を持った驚異の新人が登場!



新人賞講評(五十音順)

赤川次郎

受賞作選出までには、かなりの議論があった。

まず小説として最も破綻が少なく、よくまとまっていたのは門脇さんの「サンザシの丘」であった。細部まで取材も行き届いている。ただ、取材したことをすべて説明しようとするあまり、かなり不要な部分も目についた。一番の問題は既存の名作と、あまりに似過ぎているということである。この作品が独自の存在であると主張するには、どこかに新しい視点、工夫が必要だ。主人公のパニック障害を起す刑事のキャラクターが面白かっただけに残念である。

南藤さんの「赤心人ヲ殺ス」は吉良上野介を探偵役にした歴史物だが、ともかく文体があまりに難解で読み進むのが容易でない。エンタテインメントである以上、まず読者に理解されることを心がけて欲しい。

児島さんの「アルゴリズムの鬼手」は将棋のプロの世界を描いた作品。コンピューターソフトを使って相手を負かして行く棋士が主人公だが、肝心の試合中にどうやってソフトを利用するのか、納得の行く説明がない。一番のポイントが欠落していては評価のしようがない。また棋士の性格について、全く同じ記述が何度も出てくるなど、小説としてあまりに未熟。

結局、新井さんの「ユグノーの呪い」を受賞作とした。ヴァーチャルリアリティの世界を探検する主人公という設定は面白く、特に前半では時と場所を超えたイメージが新鮮に感じられた。ところが後半はアクション物に変質してしまう。この前半との落差は小さくないが、今後の精進を期待して、受賞作とすることに同意した。


大沢在昌

選考委員として本賞に携わるのが最後となる今回、考えざるをえない問題があった。それは、応募作における「志」である。

「サンザシの丘」
取材もよくなされている。派手さはないが破綻もなく、手がたい社会派刑事小説で、完成度は候補作中随一、といってよい。ただし、誰もが知る名作に作品構造が似すぎていた。明らかに現代版のカバーというか、リメイクを狙ったかのような印象がある。といって、剽窃や盗作というのとはちがう。要は「志」なのだ。新人がデビューするのに、過去の名作をカバーした作品がふさわしいかどうか、という問題である。

選考会はふさわしくない、との結論に達した。書ける人であろうから、次回はぜひオリジナリティの高い作品で応募していただきたい。

「赤心人ヲ殺ス 寛文上杉家連続殺人事件」
作者の意図を汲みとるのが難しい作品である。古風な文体でつづられた現代部分から一転して、時代小説部分には奇妙な言葉づかいが頻出する。あまりに凝りすぎている、そんな印象をうけた。時代小説なら時代小説で、よりストレートな書きようがあったのではないか。

「アルゴリズムの鬼手」
棋士の世界をそれなりにおもしろく描いてはいるが、描写にくり返しが多く、読む者をげんなりさせる。またコーヒーカップを倒した死者がいるというだけで「毒物死」を考える人間はいない。ふつうは病死を疑う筈だ。さらに物語の根幹といえるコンピュータ「宗歩」の形状とその使用法が説明されないのは致命的である。作者はミステリの基本というものを考えてみるべきだろう。

「ユグノーの呪い」
独自の着想があり、読み始めてすぐ、おもしろい、という印象をうけた。ただ後半部にさしかかると物語が乱暴になる。アクションシーンにおける主人公の極端な強さ、真犯人の動機の弱さと犯行手段の回りくどさも気になった。作者は腕力のある人と見た。受賞を機に、それをうまく伸ばしていっていただきたい。


北村 薫

今回は異色の三作と、古典的な作風の一作が候補となった。

「赤心人ヲ殺ス?寛文上杉家連続殺人事件」は、題材に特色があった。しかし、長編とするには、中心となる謎が小さ過ぎた。また、文章にも問題があった。歴史ミステリの醍醐味は小気味よい解釈の冒険を行うところにある。その点でも、不満が残った。「アルゴリズムの鬼手」は、最もすらすらと読めた。しかし、物語の中心となる必勝装置について説明不足である。お話だからこそ、そういう点を納得させてほしい。殺人事件も、ミステリにするために付け加えたように思えてしまう。もし、これで殺人以外の、この装置に関係する面白い謎を設定し、巧みに解決できていれば、魅力的な作品となったろう。

「サンザシの丘」は、これらの作品の後に読むと、ごく普通のミステリである。そこに安定感があった。しかし、読み進むにつれ、不満も出て来た。例えば、平沢は「城島は生きているのではないか?」という疑問の形で、警察に訴えるはずだ。劇的な場面を作るために無理をしたのではないか。
??この作品と、続く「ユグノーの呪い」は、共に先行する映画の影響について、選考会で論じられた。この作品で使われている筋立ては、はるか昔からあるもので、それ自体に問題はない。ただ肝心のクライマックスが、橋本忍・山田洋次脚本、野村芳太郎監督の映画版『砂の器』と、不幸にも似過ぎていた。故意とは思わないが、ここは減点せざるを得ない。「ユグノーの呪い」の設定にも、複数の洋画を連想させるところがある。しかし、そこから繰り広げられる物語には、独特の味がある。トラウマを克服するための、言葉の謎解きも面白い。心の中のフィレンツェ市内を、現代の日本の女子高校生が通って行くなどというところには、たまらない映像的魅力がある。このような点から「ユグノーの呪い」を推した。


高橋克彦

六百枚というのは相当な分量のはずである。たいがいの物語をこの枚数内で不足なく書き終えられる。なのに今度の候補作四点、いずれにも説明不足や筋運びの慌ただしさを感じた。ではどれもが八百枚から千枚の分量が必要な物語だったかといえば、違う。むしろ四百枚で纏められると感じたものが多かった。本当にきちんと書かなければならない部分を簡単に流し、枝葉としか思えないところに力をそそいでいる。細かな書き込みが物語のリアリティに繋がると信じてのことだろうが、リアリティは確かな軸があってこそのものだ。長大な物語が歓呼の声で迎えられている現在の弊害と言えるかも知れない。本筋から離れた主人公の地味な暮らしぶりや背景の説明に多くの頁が費やされている。それが小説の魅力と勘違いしている。新人なら直球勝負を挑んで欲しかった。物語の破天荒さや奇抜さこそを前面に押し出して貰いたかった。たとえば「アルゴリズムの鬼手」だ。どれほど緊張や起伏があっても、肝心の将棋ソフトの使用法が曖昧では話にならない。「赤心人ヲ殺ス」にしても、これだけ歴史に精通しているのならもっとだれもが承知の大事件にメスを入れるべきだ。「サンザシの丘」は力作と評価できるが、いくつかの問題点があった。欠点による消去法で「ユグノーの呪い」に落ち着いた。私はこの作品に最高点をつけていたので結果に文句はないけれど、堂々の入選作とも言いがたい。これだけは確かに枚数が足りなかったのだと思う。後半がばたばたと閉じられていく。人民の蜂起という大事な場面がまったく描かれずに終わった。前半の圧倒的なアイデアで数歩抜け出し、息切れしながらもなんとか一着でゴールインしたという感じだろうか。しかしそういう運も大切である。今後は制約を気にせず自在に枚数を用いて頑張って貰いたい。


第8回日本ミステリー文学大賞新人賞は応募総数百五十二編の中から、第一次〜第三次予選を行ない、二〇〇四年十月二十八日午後四時より、第一ホテル東京において開かれ、選考委員による審査の結果、『ユグノーの呪い』を受賞作と決定いたしました。

第10回日本ミステリー文学大賞
大賞
新人賞

●日本ミステリー文学大賞 新人賞
募集要項

第9回日本ミステリー文学大賞
大賞
新人賞


西村京太郎氏、新井政彦氏[撮影]都築雅人

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